剪定は会社経営に似ているかもしれない。
まず、心がけるのは樹をコンパクトに仕上げること。葉でつくられる養分の30〜60%も消費する枝だけに、太くなればなるほど果実への栄養が減ってしまう。「利益を上げるために組織をコンパクトに」と書けば、経済誌の誌面にでもなりそうだ。
樹をコンパクトに仕上げるためには、どの枝を切り、どれを残すかの見極めが重要になる。3年後の枝振りを想像し剪定していく。父はチェーンソーで剪定をする。樹の生命力を信じ大きく枝を落としていくからだ。読みが外れれば、せっかく育てた樹を枯らしてしまいかねない危険な技術である。ただ、そこまでの緊迫感を持って挑む価値があるほど、剪定は果実の出来に大きく影響する。そして剪定技術を支えるのは感覚だ。
どの枝がどう伸びていくのかが理屈抜きでつかめて初めて、プロとしての剪定ができるようになる。そのためには樹を見続けるしかない。樹とどれだけ真剣に相対してきたのか、その時間の質と量が問われる。
土作りは面白い。土が良くなると、樹が喜び、果実の味も変わってくる。ただし土壌の変化と樹の変化は、常に一定ではない。土壌の成分を試験管に揃えるだけなら化学的に可能だろう。しかし果樹栽培は土の微生物の力も借りる必要があり、気温や降水量などによっても土は変わっていく。
伊達水蜜園の土作りは、下草が重要な役目を果たす。「雑草」と農家から忌み嫌われることも多いが、広大な果樹園における土の状態はまず草が教えてくれる。例えば栄養が足りていない土ではスギナが育つ。また下草の根は土に隙間を作るので、通気性や水はけをよくしてくれる。じつは根も呼吸をしている。そのため酸素を取り入れて二酸化炭素を排出できなければ、根は水分や養分を吸い上げることができない。だからこそ土の隙間は重要なのだ。
さらに下草をタイミングよく刈り込みことで、微生物に分解された栄養を土壌表面に作りあげることができ、栄養を保つ力が増進する。無駄なものなど何もないのである。